俺もおるで―。阪神・片岡篤史内野手(36)が、九回二死一塁から中堅へ代打サヨナラ2ランを放った。オープン戦15打席目での初安打が、ベテランの存在をアピールする劇弾となった。
伏し目がちに歩く。何事もなかったかのように黙っている。試合後、ロッカールームから出てきた顔は
クールだった。人前ではしゃぐ年でもない。喜びは必死にこらえる「男・片岡」36歳。背中で笑っている。
劇的な幕切れ。オープン戦とはいえ、ベテランのサヨナラ2ランで沸き返ったベンチ。ホームベース付近で出迎えた仲間たちの顔が、まともに見られない。照れまくってのホームインだ。
これぞ男の仕事。同点の九回、二死一塁で代打・片岡の登場だ。カウント1―1、マルテから放った打球は、センターバックスクリーン左へと吸い込まれた。
「去年はここでケガしたからなあ。ここまでケガなくこれてるのが一番やね」
昨年3月19日、この球場で左ふくらはぎの張りを訴え離脱。1軍に復帰したのは6月だった。悔しさ、歯がゆさの詰まった高松のグラウンド。すべてを快音が振り払った。
これがオープン戦初安打。通算15打席目にして飛び出した一打を振り返ったとき、最高の笑みを浮かべた36歳。正直、ここまで苦しかった―。
試合前には正田打撃コーチと、バットの軌道を確かめた。「練習ではそんなに悪くなかった」(岡田監督)とはいえ、結果が出ていない以上は“何か”を追い求める。それがプロ14年間で覚えた術だ。
オフには日本生命の社会人選手たちと自主トレをした。プロを夢見て、黙々とトレーニングする姿が心に染みた。原点を思い出した。プロとしての幸せをかみしめた。
若手が猛アピールを続ける中、ペースを乱さず調整を続けてきた。それでも結果が出ない日々。実績はもはや関係ない。1本、欲しかった。
「左の代打は2枚いるもんな」と岡田監督。「片岡」の名前を、指揮官は忘れてはいない。
5年契約の最終年。野球人生をかけたシーズンだ。大きな存在感を示した最高の一撃にも「たまたまやがな」―。
顔で照れて、背中で笑った。
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